38 // 腕試し

長いこと剣を握ってない手
今の私に何が出来るだろう・・・望美はそう考える


勢いだけで来た場所
何となく自分の力を試してみたかった

怨霊と戦った日々
あれは偶然が呼んだ奇跡だったのか
それとも自分自身の力だったのか・・・望美は知りたかった

大きな賭け


下手をすれば命を落とすかもしれない今より先の事を考え望美は行動に移したのだ


「珍しい方がいますね」
穏やかだが驚きを隠せていない声が聞こえた


「少し見学させてもらって良いかな」

「こちらにどうぞ」陸遜が望美の手を取り兵達が鍛練している場所に導く



耳に入る金属の音
久しぶりに高揚する
血が沸き立つような・・・不思議な感覚だった。


「やっぱり私の道はここにある・・・か」望美はそう呟く



「望美殿?」

「剣・・・借りて良いかな」


側に居た兵が手渡してくれた剣を手にすると重みで手が下がる
こんなにも重い剣を手に皆は戦っている
そして私も戦っていた・・・

過去を振り返っても始まらない
だが望美の脳裏に浮かんだのは懐かしい仲間の姿


あのころの私は自分の力だけで立っていたわけではない
皆の支えがあってこそ私という存在があったのだ

「そうだよね。私は一人じゃない」


「手合わせ良いかな」
剣を貸してくれた兵に声をかけると「とんでもありません」と「貴女に怪我をさせるわけには・・」と返事が返ってきた。



望美はふんっと鼻を鳴らす

「馬鹿にしないで」
すっと剣を向け挑発

「私が相手しましょう」

「自信ありとみた」
「貴女には負けませんよ」


「どーだか」そう言うと同時に望美は陸遜に斬りかかった


剣と剣がぶつかり合う音
望美は単純に楽しいと思っていた。

だが陸遜は楽しいと感じるより、望美の力を分析し見極めることに集中していた。


しかし、その余裕は続かなかった。




怪我をさせるわけには・・・・だが望美の剣は実に無駄がなく的確に急所を狙ってくる
一瞬でも気を許したら怪我をするのは自分


「仕方ありませんね」

これ以上は・・・そう思い剣を地に投げ高く飛ぶ
陸遜は怪我をさせることなく望美の急所をつく為に武器を捨てた
その時だった。

「チャンス」と、理解できない言葉が響いた


一瞬だった。
体を拘束され無様に地に叩きつけられた

受身を取る間もなく痛む体を必死に起こした陸遜の目には青白く光る剣が向けられていた


「修行たりないねー」と、望美がにやり笑う

望美の呼吸は乱れることなく


そして・・・汗ひとつかいていなかった。


「貴女は何者ですか・・・」

「わたし?私は私でしかないよ」




「・・・・まいりました」


「手抜いた?」

「まさか」
「ふーん・・・おかしいな。本調子じゃないのになー」と望美は首を傾げる



「・・・・」


返す言葉もなく陸遜は望美を見つめる


「まあ気にしないで・・・私も必死だったし少しずるした」

「ずる?」


「なんでもない」


まだ覚えてたか・・・愛しい男が教えてくれた技
勝ち目のない戦いを優位にする技





束縛付与・・・・まだ出来たのか
なんとなく可笑しくなる
こんなにも遠い存在の男が・・・何故近く感じる


死んでしまった男が・・・何故こんなにも私を縛る


束縛付与を受けたのは自分自身


「ずるい男・・・」



「望美殿・・・」知盛とは・・・・



陸遜の声は続かない

それは背を向けたまま嗚咽する望美の姿が全てを拒否し
そして自然と遠ざかって行ったから・・・・




「貴女が欲しい・・・この呉に。そして私に」

その声は望美には届かなかったが二人の戦いを一部始終目にしていた周瑜には聞こえていた