16 // 震える身体・・・を抱きしめて

辛い恋だった


孫堅の口付けを受け嫌だと感じる事はなかった
久しぶりに感じた男の唇は


思い出したくない男を思い出させた


知盛・・・・


敵だった男。


会うべくして会った
あれは運命だった。


涙で濡れた頬は今は乾いた


だが・・・知盛の事を思い出した事で乾いた頬は再び生ぬるい一筋の道を作る



「あんた俺が見るたび泣いてるな」


「・・・・あ・・・」



そこには望美を見下ろす凌統の姿


「見ないで・・・見なければ済む事でしょう」




「確かにね。だけど見たついでだ。話なら聞くけど?」


「いらない」

「そっ。なら茶でも飲むかい」


「・・・・・もっといらない。この国のお茶は危険だから」と望美が呟く


凌統は「何だそれ」と笑い


「殿様と何かあった。正解に賭けるね」と笑い


「まあ。あの人は特別だから・・・とでも言いましょうか」と望美を抱きしめ其の背を優しく擦った



「・・・やっ・・・・離して」


「誰も取って食いはしませんよ。今だけ泣けば?誰も見てないし」




やめて・・・
優しくしないで・・・・
今の私は小さな・・・些細な事でも崩れ落ちそうなほどに弱っているから



そう口にしようにも望美の唇は洩れてしまいそうな嗚咽を耐えることに必死で



「・・・・今だけだからさ」と耳元に聞こえてきた声に



小さく「ありがとう」そう答えるが精一杯だった。