05 // 美しいと思った・・・

ここは呉


偉そうな男は孫堅と名乗った
要するに殿様らしい


思ったとおり・・・



この時代は戦乱の世


冷静になりつつ頭が今までと違い日本ではない中華の国に飛ばされたのだと教えた





自分の立場はまだわからない
どんな処罰が下されるのか
何を言われるのか・・・・それすらわからない



だが望美は不思議と落ち着いていた
多分私はここに住むのだろう
そう直感していた
それが悪い意味であっても命まで奪われるような事はないだろう



今まで数々の苦境を乗り越えてきた望美は、そう感じていた。



何となく可笑しくなった
私の前世はよほど悪い事をしていたのだろう


と、ぼんやりと考えていた



ふと気の緩んだ望美の唇は柔らかな弧を描く
そんな望美に幾つもの視線が注がれる


その視線の一つである男は・・・・・






あの少女は声も出さずに泣くのか・・・
美しい涙を流しながら笑みさえ零す事が出来るのか・・・
この屈強な男達に囲まれながら何故笑う事が出来るのだろうか・・・・







我が妻と同じくらいの年だろう


何故あんなにも無防備に見えながら大人びて見えるのだろう

そう考えていた




流れる一筋の涙も隠そうとせず
君主孫堅の視線を正面から受け止める望美を一心に見つめるは・・・



呉の誇る軍師 周瑜


美しい顔立ちに隠された武
一見弱々しく見えるこの男も戦乱の世に生きる武将であり
知と勇を備えた呉の頭脳の一人だ




その男が望美を見定めようとしている
望美はそれほどバカでもなく
人の視線には敏感


神子として見られる視線
敵として見られる視線


女として見つめられる視線には体中の細胞が反応する




だが今感じる視線は今までと違う何か
死を覚悟するような視線でもなく
女として見られているわけでもなく理解出来ない視線だった



そんな不思議な視線の持ち主に望美が視線を泳がせると
絡み合った視線数秒




美しい・・・・男の人だと


そう思った



それでも今まで感じた事のなかった恐怖を感じた



この人は私の運命を狂わせる



そう感じた。



「どうした」


「いえ・・・何でもありません」
望美は深々と頭を下げる


それは視線の持ち主である周瑜から逃げるためだった