08 // 現れた混乱の種

何て馬鹿なことを言ったのかな・・・
別に呼び名なんてどうでも良いこと


今まで八葉達も好きに呼んできた
そして、それを自然と受け入れていた


それなのに周瑜に「望美」と呼ばれると胸が跳ねた



ダメだと・・・感じたのだ



呉に流れ着いて幾月が立つ
親しくなった者は沢山いる


だが皆「殿」をつけるか「お前」「アンタ」で
「望美」と呼ぶのは二喬と尚香だけだった
あの孫堅でさえ「望美殿は・・・」と話しかけるのだ



「はぁ・・・・・疲れた」



時間が空いた
お茶しようと誘われていたが何となく一人で過ごす時間が欲しくて


広い迷子になりそうな庭園で望美はゴロリと転がった
今、魏、蜀、呉は同盟を結び平和そのもの



でも望美は知っている
今後この平和は崩れ去り天下統一を目指し「三国」は戦乱と化す



空を眺めると急ぎ足で流れる雲
自由に動き回る雲にさえ嫉妬を感じた
「いいな・・・」思わず口にする



「何がだ」


それは突然だった
バンッという音と共に何かが降ってきた
否・・・・現れた



「お前誰だ?」



「えっ・・・あっ。春日望美です」と勢いで答えてしまった

太陽の光を背に浴びて太陽のような笑顔

思わず我に返った望美は「てか・・・誰ですか」と問う




「俺は孫策。伯符で良いぜ。で、お前は何者だ」


何者だ・・・・と言われても何と答えて言いか・・・・
うーん。と頭を傾げる
その姿を見た孫策は・・・

「何だよ。変なヤツだな」と豪快な笑い声

笑われているのだからムッとしていいはず
それなのに孫策の笑顔は気持ちが良いものだった



その時だった。

「帰ってきたのか」と、静かな声が聞こえたのは


「おっ。久しぶりだな周瑜」


「悪かった春日。孫策が邪魔をしたようだ」


先ほどまでの穏やかな気持ちはスーッと落ちた


「いえ。とんでもありません周瑜様」と頭を下げると望美はそそくさと逃げ出す




「あっ。おいっ望美」



声をかけられ無視する事など出来ない望美は振り返る
「今度話しようぜ」と孫策に言われ



「わかりました」と微笑んだ




二人の視線を背中に感じながら望美は思った
対照的な静と動



この二人が今後の呉を支えるのだろうな・・・と



望美の姿が小さくなるまで二人の男はその姿を見守っていた


そして・・・・全てが消え去ると
「で・・・あいつ何者なんだ」と孫策は問う


「望美・・・・か・・・・」と呟く周瑜



成り立たない会話に孫策は何かを感じる


「お前、惚れたのか」


「・・・・・あの娘の正体は・・・・わからないのだ。ただ皆に愛されているのは確かだがな」と
静かに答える周瑜に孫策は苦笑いしながら



「まっ気にすんな。女は気まぐれだからな」と周瑜の背を叩く




成り立たない会話にも意味はある
孫策が現れたことにより動き出した呉の国



戦乱はまだ始まらない

だが・・・・
今呉の国は望美の出現により混乱と化そうとしていた